29歳の憂鬱〜東京:三軒茶屋在住、OL大崎ハルナの話〜vol.06




9月秋晴れの日曜日。

ハルナは11時半にランチの待ち合わせで、
新丸の内ビルディングに来ていた。

「ハルナ、ごめんごめん、お待たせー!」

そうやって、
エスカレーターを降りて走ってきたのは、
この前ハルナに結婚招待状を送ってきた片岡菜々子で、

菜々子の後を追うように現れたのは、
大学時代のサークル同期の中で一番最初に結婚をした君島菜月だ。

「ハルナ、久しぶりー!元気だった?」

菜月と会うのは、
かれこれ4年ぶりくらいになる。

前回会ったのは菜月の結婚式の時。
その後、菜月は妊娠をして、今は1児のママだ。

今年の春に産休を終えて、
時短で職場復帰したとハルナは聞いている。

学生時代から、
二重がくっきりしていた菜月は、
目鼻立ちが整っていて目立つ存在だったが、
今もその存在感は保たれているようにハルナには思えた。

ただ、服がなんとなく、所帯じみたことを除いて・・・。

「菜々子、婚約おめでとう!!」

予約していたレストランで、
ランチコースに付いているアペリティフで
菜々子の婚約が決まったことをネタに乾杯。

こうやって3人で会うのは、
本当に久しぶりだったので、
近況報告をメインの話題にしながら、
コース料理を口に運ばせていた。

ハルナ、菜々子、菜月は、
大学時代、本当に仲が良くて、

よくハルナの一人暮らしの家に
二人が泊まりに来て朝までしゃべったり、

国内、海外と、
色んなところに旅行に行ったり、

おそらく4年間の中で、
一番時間をともにした友人だった。

確かに学生時代の思い出話しは楽しい。

思い出す度にケラケラ笑い転げたくなる、
そんな思い出は山ほどあるのだけれど、

どうだろう??

最近の近況の話しになると、
何故かお互い会話がギクシャクしてしまう。

「ハルナは結婚はまだなの?確か彼氏いたよね?」

菜々子の言葉で
会話の主人公がハルナに移った。

「ハルナ、彼いるんだねー。もう付き合ってどのくらいになるの?」

「えっと、2年くらいかな。取引先の担当者だったんだけどね。」

「そっかー、2年お付き合いしているなら、
もうそろそろ結婚になってもおかしくないね!」

無邪気に菜月は笑顔で喜んでくれている。

「うん、まぁ、お互い考えてないわけじゃないけど、
なんか仕事も面白いし、今じゃなくてもいいかなぁって、
私は思ってるんだけどね。急がなくてもいいかなって。」

「ハルナは昔から優秀だもんね!
キャリアウーマンって感じ、羨ましい。
でも、子育てって思った以上に体力使うよ。
歳重ねてからだと子供の体力についていくのが大変。
だから、出産考えているなら早いほうがいいと思うよ。」

(あぁ、何度も聞いた、その台詞・・・)

(何故、早くに子供を産んだ母親は決まって同じ台詞を言うんだろう・・・)

(まぁ、良かれと思って言っているのよね、悪気がないのは分かる・・・)

(でも何故だろう?この話題、どうしても好きになれない・・・)

「うん、まぁ、そうだよね。
ご忠告ありがと、崇史とも話してみるわ。
それより、菜月は職場復帰してどうなの?」

ハルナはさりげなく、
話題の中心を自分からそらした。

が、この質問が
今日のランチの地雷だったことを、
ハルナは後から知ることになるのだった・・・。。

======(午後17時)========

つ、疲れた・・・。

楽しいはずのランチタイムが、
仕事の商談以上に気を遣い、愛想笑いをする、
そんな時間になるなんて。

ハルナは思った。

オンナの友人関係って、
結局「未婚」「既婚子なし」「既婚子あり」で
3つに分類されるんだって・・・。

違う分類の友達と話すと、
何故か途中から異国の言語を聞いているように、
理解不能、脳みそがフリーズしそうになる。

よっぽど、
職場の後輩のあつ美と
話していたほうが会話が楽だ。

本当はランチの後に、
ハルナはネイルサロンに寄って帰る予定だったが、
サロンに寄る気力がなくなり三軒茶屋の自宅に真っ直ぐ帰り、
ソファで一段落していた。

「はー、疲れた・・・」

ハルナのこの疲れの原因は、
ランチの時に菜月に振ったあの一言がきっかけだった。

「それより、菜月は職場復帰してどうなの?」

この質問を
投げかけた途端、
菜月は勢い良く話し始めた。

マシンガントークと言って良いだろう。

「時短になって新卒並の給与に戻った。
モチベーションが上がらない。」

「その割に保育園代が高く、
給与の半分くらいが保育園代に消える。」

「毎日忙しくて、
自分のことに時間が取れない。」

「旦那さんは、
子育てにあまり協力的じゃない。」

「責任ある仕事からは外され、
補佐的な仕事ばかりでやりがいがない。」

などなど・・・。

よく世間的に耳にする
子育て世代の女性の悩みの巣窟のように、
菜月は次々を愚痴を漏らしていく。

多分、言える相手が
普段周りにいないのだろう。

言う暇、時間がないのかもしれない。

とまぁ、
ハルナが聞いたところで、
どうすることも出来ない話題を、

(仮にアドバイスしたって、
未婚者にはわからないだろうと
思われるだろうし、何も言えない・・・)

延々と、
ランチコースの
メインディッシュが出たタイミングから、
コーヒー・デザートを味わうタイミングまで、
ずっと菜月の愚痴で持ち切りだった。

アドバイスも出来ない、
解決先を提案することも出来ない、

ただ聞く事した出来ない話題が、
今のハルナにはあまり興味のない話題だったこともあり、

楽しいはずのランチタイムが、
急遽オンナの3分類を感じるランチタイムに
変わったのだった。

「私も崇史と結婚して、
もし子供を産んだとしたら、
菜月みたいになるんだろうか?」

そう考えると、

自分の時間が持てないバタバタした毎日も、
給与が下がってしまう会社でも待遇も、
同級生と会った時に「なんか所帯じみたな」と思われる自分も、

ハルナはまだ想像したくなかった。

29歳のオンナは、
2種類に分けられる。

そう思っていたが、
実は2種類ではなかった。

3種類に分けられる。

未婚のオンナ
既婚・子なしのオンナ
既婚・子ありのオンナ。

さて、ハルナは、
どの道を選択するのか?

次の連載に続く。

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ABOUTこの記事をかいた人

webコンサルタント。13年半の会社員生活を経て独立し、現在は個人・法人向けにWEB集客、メディア運営のアドバイスにて事業を展開。横浜・みなとみらいエリアにマンションを購入し、大好きな土地でのライフスタイルを実現している。